マーク・カーランスキー:紙の世界史(PAPER : PAGING THROUGH HISTORY)
書名を見てそういえば日本の紙の歴史については読んだことがあるけれど、世界の紙の歴史はよく知らないなと思い読んでみることにした。
紙については世界の四大発明の一つで、中国の後漢の蔡倫が発明改良したということ、日本の和紙、パピルス、羊皮紙、木材チップから作られる紙のことなどは知っているが、技術の変遷を歴史としてのつながりとして考えたことはなかった。
最初にひとが物事を記録することの必要性から生み出されてきた粘土板とスタイラス、パピルスにペン、木片や竹に筆、羊皮紙にペン、紙に筆とペンの歴史から説き起こされる。
中国での文字の発達と紙の発明と普及、イスラムへの製紙技術の伝搬、イスラムを通してルネサンス期のヨーロッパへ、そしてアメリカへと伝搬される技術、もう一つの流れとして中国から日本へのへの製紙技術の伝播と進化が克明に記されている。
一番驚いたことは、イスラムやヨーロッパで木材パルプの製造方法が使われるまで19世紀まで製紙原料の主たるものがボロ布だったということだ。原料が極度に足りなくなって死体から剥がすことまで行われていたというのも驚きだ。
製紙技術はリネンや綿のボロ布や切れ端を効率良く叩き潰し、紙に漉くことに注がれていやようだ。
アメリカの公文書や大学の学院論文は、木材パルプの紙ではなくコトンペーパーを要求されるのは歴史なのかもしれない。
早くからアジアでは木質の紙が作られていたが、ヨーロッパで木質パルプに至るのは、18世紀にスズメバチの巣に着目されてからで、クラフトパルプが使われるにはまだ一世紀ほどが必要だった。
紙がなければ印刷技術の発達もなかったしヨーロッパの宗教革命も起こらなかったし、教育の普及などにもつながらなかっただろう。
きたきつねが全く知らなかったこととして南米のマヤ文明やアステカ文明が文字を持っていただけでなく紙も作っていて、アステカ人が年間50万枚もの紙を作り、あらゆる記録に使い図書館を持っていたことだ。
スペイン人がそれらの本や図書館を焼き払ってしまったので、世界には数冊の本しか残っていないということも知らなかった。
今は日本の和紙が紙の品質で世界一なのは理解できるが、、紙の生産は中国が世界の頂点に立っているのは知らなかった。
木材がないのにと思ったけれど、パルプをかためたプレスボードを大量に輸入して普通紙や新聞用紙などを作っているということだ。
確かに100円ショップで売られている大量のノートや紙製品は中国製だ。30年ほど前の中国では紙の生産が少なく低品質だったし、ワラやアシなども原料に使われてたから隔世の感がある。
読後の感想は、紙についての無知さ加減に驚き、盲が啓かれたということに尽きる。
久しぶりに厚い本を一気に読んだ。翻訳者が副題に「歴史に突き動かされた技術」と付けているように、著者が「テクノロジーが社会を変えるのではなく、社会のほうが、社会の中で起こる変化に対応するためにテクノロジーを発達させている」という主張しているところを強調したかったのだろう。
巻末の年表もしっかりしている。残念なのは索引がないところだけだ。
目次
序 章 テクノロジーの歴史から学ぶほんとうのこと
第1章 記録するという人間だけの特質
第2章 中国の書字発達と紙の発見
第3章 イスラム世界で開花した写本
第4章 美しい紙の都市ハティバ
第5章 ふたつのフェル卜に挟まれたヨーロッパ
第6章 言葉を量産する技術
第7章 芸術における衝撃!
第8章 マインツの外から
第9章 テノチティ卜ランと青い目の悪魔
第10章 印刷と宗教改革
第11章 レンブラン卜の発見
第12章 後れをとつたイングランド
第13章 紙と独立運動.
第14章 ディドロの約束
第15章 スズメバチの革新
第16章 多様化する使用法
第17章 テクノロジーの斜陽
第18章 アジアへの回帰
終 章 変化し続ける世界
謝辞
年表
参考文献
PAPER 紙の世界史-歴史に突き動かされた技術
第1刷2016年11月30日
著者 マーク・カーランスキー
訳者 川副智子
発行者 平野健ー
発行所 株式会社徳間書店
PAPER : PAGING THROUGH HISTORY by Mark Kurlansky
Copyright c 2016 by Mark Kurlansky
Japanese translation rights arranged with W. W. Norton & Company, Inc.
through Japan UNI Agency, Inc., Tokyo
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