上司は思いつきでものを言う
橋本治 「上司は思いつきでものを言う」 集英社新書
橋本治氏は、1970年代後半「桃尻娘」でいっせいを風靡し、その後小説家、評論家、劇作家などマルチな創作活動を続けている。きたきつねは橋本治氏と同年代なのだけれど、実は彼の作品は読んだことがなかった。この本もブックオフの100円棚を物色中に、つい気まぐれで手に取ってしまった。
読んでみると、実におもしろい。これは会社の上司(中間管理職)の必読の本ではないのかと思ってしまい、一気に読んでしまった。
橋本治氏は、サラリーマンをしたことがないのに、組織人の機微がわかるのだろうかと思っていた。「あとがきのあとがき」に、種明かしがあって、彼は、出版社の「お出入り業者」の作家として、下っ端の社員の更に下から観察していたということらしい。
「上司が思いつきでものを言うのは日本のサラリーマン社会の組織的問題」について、権限のない中間管理職の悲哀を軸とした論考はなかなか的を射ている。
官僚組織についても、なぜ役人は現場の声を聞かないかということについても、官僚の仕事は法律が決めているので、「上から下がってきた任務を果たす者」という実に興味ある分析になっている。
国民主権の民主国家では、行政府の長や立法府の議員を国民が決めているのだから、国民は行政府の長や立法府の上にいる。役人は一番下にいるのだから、役人は常に上からの指示で動き、下から上への声はない。これは実に明快な論理ではないか。
「愚かな上司と正しい部下」と「愚かな上司と愚かな部下」の組み合わせはあっても、「正しい上司と愚かな部下」の組み合わせが存在しない理由は、部下を愚かなまま放置している上司は愚かで「上司としての徳」がないといわれてしまうと、返す言葉がなく頭をたれるばかりでした。
繰り返しになりますが、この本を部下に読ませてはなりません、中間管理職がしっかりと読んでおかなければいけません。物事をよくわかっていない部下が、この本をブックオフに持ってきたのに違いありません。中間管理職の座右の本としておきましょう。
「桃尻娘」も読まなくては。
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