山田洋次の魔術に騙される
今日は山田洋次監督、吉永小百合主演の『母べえ』を見てきた。この二人の組み合わせは見ないわけにはいかないでしょう。
公開から三週間になるので、劇場の入りは半分くらいだったけれど、きたきつねを含め年寄りが多いこと。もっと若い人にも見て欲しいのだけれど・・・。それにしても、二人で2,000円という50歳以上夫婦割引の効果が大きいと思う。
笑いの中にも深い悲しさが表現されていて、さすが山田洋次さんだ。セットの細かなところまで気配りがあって、三丁目の夕日のような違和感が全くないので、スクリーンに集中できた。
日本の国が過去に起こした愚挙を、治安維持法の思想犯として父親を検挙されたインテリの家族を通して、柔らかく見通すというとても良い映画だった。
つい先日読み終えたばかりの阿川弘之さんの『大人の見識 』の第二次世界大戦についての話と非常にうまくリンクしていたので、興味深いところが多かった。
阿川さんの支那事変から終戦まで日本はソ連や北朝鮮と同じ社会主義国だという分析は、目から鱗だった。「欲しがりません勝つまでは」、「一億総火の玉」というのは、今の北朝鮮と、憲兵はロシアのKGBと同じではないか。
東條英機を中心とする陸軍軍人にノブレス・オブリージュがあったかといえば無かったというのは間違いないような気がする。
勝ち目の無い戦争に突入していくところについては、猪瀬直樹の『空気と戦争 』の中にある話ともつながってくる。東條英機の狂気としか思えない。この本は一読の価値はある。
色々な家族が、それぞれ生活を守りながら生きて生きたことを実感できる内容で、心に滲みた。
最後に父べえのナレーションがあって、母べえのことを「11貫足らずの小さな体で」といっていたが、11貫といえば40キロちょっとだけれど・・・。戦時中の食糧事情にしては、スクリーンの上の人々の血色のよいことは、どうしようもないということだろう。
山田洋次監督は、どうも自然系の考証が苦手なようで、これまでの作品よりはましだったけれど、気になるところが幾つかあった。時代考証と同じように自然考証を見て貰う人が必要だと思う。
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