ノーフォールト
尊敬する職場の大先輩が奨めてくれた岡井崇さんの『ノーフォールト』の最後の部分を東京へ向かう電車の中で読んでいて、不覚にも涙がでてしまった。
大学病院の産婦人科の員外助手の柊奈智医師が、子育てをしながら過酷な当直勤務を続けているなかで、色々な問題に直面しながらも、産科医として成長していく物語なのだけれど、救急医療や産科医師不足などの現状を考えさせてくれる。
著者の岡井さんは、昭和医科大の産婦人科学講座の主任教授ということで、手術の場面などは非常にリアルな感じで引き込まれてしまうけれど、それよりも著者が切実に感じている医療の問題点を切れ味良く提示してくれている。
一番、大きいのが、出産の時に、力がおよばず患者を死なせてしまい、それが医療事故という形で訴訟となる問題などについては、共感するところがあった。
きたきつねは、20年程前に母親を病院で亡くしたけれど、医師が検査の時の処置が原因で、最後は多臓器不全だった。でも、医師が直後に誠意をもって、きちんと説明してくれたので、きたきつねとしては納得できて、事故とは思わなかった。
医療というのは、人体のあらゆることが完璧に判っていて、治療技術も完全かといえばそんなことはない。判らないことが沢山あるし、技術的にもその時点での最良のものでしかないと思う。だから絶対安全、確実はないと思っている。
去年、手術を受けたときも、簡単な手術と説明されてはいた。でも、エコーやCTで検査したといっても実際に開腹してみて初めて判ることもあるだろうし、医師の技術の問題もあるかもしれないので、信頼することしかないと思った。
患者を力およばず死なせてしまった医師が、何も感じないはずもないし、そのことを糧にしてより良い医療を提供できるようになってくれることを期待することになる。
もちろん、患者の死を何とも思わず、医療過誤を繰り返すような悪質な医師は、医療の現場から退場すべきことは当たり前だろう。
医師は、一人前になるには時間がかかるし、技術は知識と違って、実際に経験しなければ上達しない。名人も初めは素人だから、指導を受けながら技術を積み上げていくしかない。それがなければ医師の技術は向上しないし、医師は不足するに決っている。
アメリカのように、何でも訴訟で金にしようとする社会は異常で、日本もそのような社会になりつつあるようで気味が悪い。
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