ト学会が喜びそうな本を見つけた
まず最初の農地についての論述が始まるが、分類が「西洋」、「東洋」だ。そしてオセアニアは「西洋」に入るらしい。アフリカは論外らしい。「西洋」、「東洋」という分類自体時代錯誤としかいいようがない。
ここで大雑把な推定をしてみたい。それは、農地1ha当りの扶養人口から、地球上どれだけの人間が住めるかを推定するものである。こころみに、世界の農地1haの当りの人口密度を東アジア並みに引き上げると、世界の人口は現在の2.2倍の141億人になる。
これは、東アジアと同様の農業技術と食生活を仮定すると、現在の農地だけで、地球が141億人扶養できることを示している。
東アジアの農業技術と食生活というとどんなものなのか、どこにも書いていないけれど、そんな単純な計算だけで地球の扶養人口が判るものなのだろうか。
ここで、人間が森林を伐採して農地を造成した程度を知るために、農地率を定義した。
農地率(%)=(農地面積/(農地面積+森林面積))×100
この定義を使うと、森林が無く、砂漠や荒れ地と農地しかない国は、なんと農地率が100%ということになる。だから次のようなことをいいだすのだ。
4大文明はナイル川、チグリス・ユーフラテス川、インダス川、黄河流域に起こったとされるが、図1.2を見ると4大河川とその周辺において農地率が高い。ナイル川が流れるエジプトの農地率は99%にもおよぶ。
農地率が99%だと食糧は十分にあって、四大文明は今も続いているといいたいのだろうか。
大豆は根に共生する根粒菌により窒素を得ているために、窒素を投入によって単収を増加させることは見込めない。このため、よほどの品種改良が成功しない限り、21世紀においても単収は大きく増加することはないだろう。
ダイズに窒素肥料がいらないなんていわれると、ダイズ栽培の研究者は泣くだろうな。
1990年代以降も7000万t程度を漁獲し続けていることを見ると、現在の漁獲量を維持することが難しいとすることも根拠が乏しいように思える。中略 2050年の食料を考えるとき、海洋からの漁獲については現状維持されるとしても、大きな間違いにならないように思える。
乱獲で獲れなくなったので、水産関係者はどう思うだろう。
ハーバー・ボッシュ法とは空気に79%も含まれている窒素と、水を電気分解して得た水素を用い、高温、高圧下でアンモニア合成する技術であるが、空気中の窒素と水が原料であるから、エネルギーさえあれば事実上無限にアンモニアを作ることができる。
原理的にそうかもしれないけれど、工業的には水の電気分解では無理だろう。今はナフサや天然ガスをつかってアンモニアを生産していることを知らないようだ。
レスターブラウンの氏の挙げるFAOデータに見られる世界の穀物生産量の伸びの鈍化は、本書の第2章で見たように飼料用穀物の需要が大豆に取って代わられたから生じており、単収の伸びが鈍化したからではない、穀物への需要が鈍化したために生産も鈍化しただけのことである。
ここのところは、レスターブラウンに見せてあげたい。
マクロな視点で見たとき、第二次世界大戦が終了した頃から、食料を作ることは極めて容易になっている。先進国では、農業人口が1%以下になる日はそう遠くない。
何がマクロな視点か!
米国のロッキー山脈の東側の地域にはオガララ帯水層の化石地下水を利用する農業がある。この地域はそれほど農業が盛んな地域ではなく、化石地下水を利用して穀物が栽培されている面積は米国の穀物栽培面積の5%ほどでしかない。米国の化石地下水を利用した農業は目ぼしい産業がない内陸部の地域振興的側面が強いと推察する。現在は地下水の枯渇にも十分配慮がなされているので、化石地下水が枯渇して、米国農業全体が大きな打撃を受けることはないと考えてよい。
もう突っ込む力が無くなってきた。中西部・南西部の諸州の農家が「この地域はそれほど農業が盛んな地域ではない」といわれたら、どんな思いをするのだろうか。この地域は「アメリカのパンかご」と呼ばれているのだ。
20世紀にヨーロッパが穀物の輸出地帯に転じたことも、米国に膨大な食料増産余力があることと合わせて、2050年を飢餓の時代と見ることは間違いであることを示している。
アメリカとヨーロッパの農業生産で141億人が養えるということだろうか。
さらに、中国、北朝鮮、アフリカの食糧問題についてこんな調子で話が進み、書名にあるバイオマスエネルギーについては最後に少しでてきて、食料生産の未来はバイオマスエネルギーとの競合は起きない2050年の予測で終わる。
世間のトンデモ本やトンデモ物件を品評することを目的としているト学会が毎年選定している日本トンデモ本大賞に推薦したいものだ。
読む価値はないし、時間の無駄だと思うけれど、どうしても読みたい人は図書館で探すか、書店で立ち読みで十分だ。
大学の先生は、お互いに○○先生と呼び合って、議論を戦わせたり、相互に批判することがないのではないか。というのも著者の川島某准教授は、東大大学院農学生命科学研究科にいるのだから、農業関係、水産関係の専門家が沢山いるはずなのに、こんな内容の本が出てくるというのが、不思議でならない。
| 固定リンク
コメント