半村良「湯呑茶碗」
製紙会社の部長で定年退職した住人が50代の大家に言う言葉が、定年を迎えるきたきつねには、判るような気がする。
「定年が近づいたとき、再就職も考えました。もちろんですよ。このまま朽ち果てるには、まだ若すぎはしないかとね。ですが、人間として尊厳を維持しながら老いるというのは、競争社会を生きぬいて、一段ずつ這い上がってゆくより、もっと難しいことです。現代は積み重ねた経験が尊敬を受けるような時代ではなくなっているのです。去る者日々に疎し、ということばがありますが、老いる者も日々に疎しですよ。新しいものが、どんどん人間を追い越して行くのです。」
でも半村さんは、この本を書いたときはまだ50代前半だったはずで、作家の想像力は凄い。
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