「塩」の世界史―歴史を動かした、小さな粒
塩というのは、身近にあって生きていくために必要不可欠だけれど、沢山取りすぎると高血圧の原因になる調味料というイメージで、せいぜい塩鮭とか漬け物くらいか思いつかないし、あまり真剣に考えたことはなかった。
『「塩」の世界史―歴史を動かした、小さな粒』を読み始めて、塩を巡って戦争が起こり、冒険にでかけ、巨大な富を生む源泉として世界を動かす資源だったことを確認することができた。
冷蔵庫も缶詰も無い時代に食品を長期間貯蔵する方法は、乾燥するか塩漬けにするしかなかった。そんな時代の方が長かったことを完全に忘れていた。
塩とたばこが長い間専売制度があって、国の機関が製造販売していたことを思い出した。その意味もこの本を読んで分かった。
塩が大量に供給することができるようになって、海産物や肉を大量に長期間保存でき、遠くに運ぶことができるようになって、人口増加にもつながっていく。
塩を押さえたものが世界を治めてきたというのもあながち誇張ではないような気がする。塩は、ギリシャローマ以前から重要な戦略物資で、古代文明でも大きな役割を果たしていた。その後も、アメリカの独立戦争の原因の一つにもなっているし、南北戦争も南軍の塩不足が北軍の勝利の原因だったとなど、目から鱗がボロボロ落ちた。
そういえば、上杉謙信が武田信玄に塩を贈ったという逸話は、塩が重要な戦略物資だったし、長野県には塩の道があって主点が「塩尻」だった。
ヨーロッパのサル、ソル、ザルのつく地名は、塩に関連があって、ドイツのザルツブルグも塩に関係している。
昔のチーズ、バター、ハム、ソーセージは、保存のために非常に塩辛いものだったし、塩蔵の魚も塩で真っ白だったけれど、今は塩は保存料ではなく調味料になってしまって。
製塩技術の発達は、井戸堀り、ポンプ、蒸気機関、乾燥など幅広い技術へと波及し、塩が科学の発達にも貢献しているなど、視点を変えるといろいろなことが見えるものだ。
製塩は、濃い塩水を煮詰めるために大量のエネルギーが必要になり、森林の破壊、環境汚染なども引き起こされてきたことも分かる。人類が生きていくということは、地球を食い尽くすことなのだろう。
最近では、塩は、道路の融雪剤、工業や薬品原料として大量に利用され、食品としての利用は僅かになっている。岩塩層での石油備蓄、高濃度放射性物資の最終処分場などへの利用も進められている。
食から、政治、科学、技術まで幅広い方向からの分析で、実に面白かった。
絶版重版未定らしく、2200円の本にプレミアムがついているようで、図書館で借りたほうがいいかもしれない。
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