竹村公太郎:江戸の秘密
地形で歴史が説明できるという竹村公太郎さんの最新の「江戸の秘密」(集英社刊)は副題に「広重の錦絵と地形で読み解く」とあるように、歌川広重の錦絵から社会や地形の成り立ちを読み取る内容の本だ。
この本は集英社の月刊誌「青春と読書」に2017年7月から2018年12月まで18回連載された「広重の絵で読み解く 江戸の秘密」を改稿したものだ。
連載時から興味を持って読んでいて、異論もあるけれどなるほどと思わせるところが多かった。
歌川広重の「東海道五十三次」、「江戸名所百景」などの錦絵を現代の写真に相当するのではないかというアイデアで、絵の中に描き込まれた情報を治水を専門とする土木技術者がどう読み解いたかというのが面白いところだ。
多くのテーマは著者が以前から書かれてきた内容と重複する部分もあるけれど、それをさらに補強する内容にもなっている。
内容を読んでいるうちに広重は、ただ美しい絵を描いていたのではなく事実を記録していたのではないかと思うようになった。
小名木川を軍隊を移動するためのアウトバーンという解釈だけれど、きたきつねはそれだけではなく低湿地を干拓するための排水路だったと考えていて、小名木川ができた頃には海の底だったところに並行して仙台堀川ができていることからわかると思う。
この本で分かったのは、千葉の船橋、世田谷の千歳船橋の地名が船をつないで板を渡した仮設橋に由来するということだ。
江戸時代は、戦略的理由で橋を作らなかっただけでなく、当時の技術で固定した大きな橋を作ることが難しかったのではないかという説明も理解できる。
広重の「東京品川海辺蒸気車鉄道の真景」で海の上になぜ線路を引いたのかの絵解きも面白い。最近、高輪ゲートブリッジ駅の再開発現場から鉄道が通った土手の石積みの遺構がでてきたことも含めて興味深い。
目次
第1章 日本橋から始まる旅
第2章 「参勤交代」と「統一言語」
第3章 水運が形成した情報ネットワーク
第4章 戦国のアウトバーン、小名木川
第5章 関東平野の最重要地、軍事基地「国府台」
第6章 馬糞が証明する究極のリサイクル都市「江戸」
第7章 広重の”禿山”から考えるエネルギー問題
第8章 下谷広小路ー防災都市の原点ー
第9章 日本人の橋造りー対岸への願望ー
第10章 日本堤と吉原遊廓ー市民が守った江戸ー
第11章 遊郭の窓から500年の時空へ”高台”という仕掛け
第12章 ヤマタノオロチが眠る 湿地都市の宿命
第13章 文字通りの鳥瞰図
第14章 日本の命の水の物語
第15章 歴史が生んだ近代
第16章 近代化の象徴、鉄道開通と住民運動の始まり
あとがき
参考文献
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