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2023/05/30

武田惇志・伊藤亜衣「ある行旅死亡人の物語」(毎日新聞出版)

きたきつねは行旅死亡人に興味があるので、この本つい読んでしまった。

共同通信の遊軍記者が行旅死亡人データベースを見て、「本籍(国籍)・住所・氏名不明、年齢75歳ぐらい、女性、身長約133cm、中肉、右手指全て欠損、現金34,821,350円」という情報を見て、女性の身元を探しはじめ、最後に身元を明らかにするというノンフィクションだ。

行旅死亡人は、死亡した場所の地方自治体や警察一応身元や引き取り人を探すことをしていることを初めて知った。

遺産が多い場合には相続財産管理人の弁護士を依頼して調べることもわかった。

身元が分からなかったり、身元が判明しても引き取り手がない場合に官報に公示しているのだ。

対象の女性「田中千津子」さんについては、相続財産管理人が探偵を使って調査しても、同じアパートに40年も暮らしていたのに、大家でさえ本人のことを詳しく知らず、近所に知る人もなく、氏名は分かっていて年金手帳や貯金通帳があるのに住民票もなく戸籍もたどり着けていなかった。

行旅死亡人の公示には、氏名不詳とあるけれど、氏名は分かっていても存在を証明できないことが理由のようだ。

アパートの契約は同じ苗字の男性だけれど、こちらの素性も不明で、写真はあるけれど、近隣の人は誰も見たことがない。

製缶工場で働いていて、労災事故で右手を失っていても障害年金の支給も断ったり、色々な不可解なことが多いので事件、工作員という疑問があったりと、色々と調査の過程も面白い。

解決のきっかけは遺品のなかにあった珍しい名字「沖宗」の印鑑から、広島の街出身だということがわかり、身元が分かり、最後には姉妹にまでたどり着いている。

新聞記者が偶然みた行旅死亡人の告示の特殊性から、一人の行旅死亡人の身元が明らかになったのだけれど、この人は非常に幸福で、多くの身元不明者は調べてもわからないままなのだという読後に思った。

ただ、当事者が40年以上も家族と連絡を絶ち、社会からも孤立を保っていたということは、本人の意志であり、それを興味本位で素性が明らかになり、親類縁者と繋がったのは良いことだったのかということは分からない。

「本籍・住所・氏名不詳(推定山本文德、昭和18年4月16日生、79歳)、70歳から80歳の男性、高度腐敗により不明、細見、白色タンクトップ着用、遺留金品は財布1個、遺留金2,262円、診察券7枚印鑑1本、通帳1冊、キャッシュカード1枚、カードケース1個、運転経歴証明書1枚、住民基本台帳カード1枚、鍵1本、電話帳1冊、お薬手帳1冊
上記の者は、令和4年8月23日午前11時09分堺市堺区三宝町四丁234番地川元文化102号室で発見されました。死亡は推定令和4年8月上旬、発見場所に同じ。死因は不詳。お心当たりの方は当市生活援護管理課まで申し出て下さい。
令和4年12月15日 大阪府 堺市長」

このように行旅死亡人の公告の中で、住民基本台帳カード、運転経歴証明書などがあるのに身元不明の男性が出ていたが、本籍を辿っても血縁関係者にたどり着けなかったんだと納得した。

昔NHKテレビの「私の秘密」で高橋圭三アナウンサーがはじめに「人生は小説に似たり」ということばを思い出した。

人はみなそれぞれの歴史を持っていて、特殊な例を除いて泡のように消えてしまうのだと思うと寂しい。

何かを残して置かなければという気持ちがさらに強くなってきた。

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